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驚天12小時

『全力でデブやれ、他の奴らはこの際はどうでもいいです。』

北島先生の名言が発せられた、華仔率いる天幕製作による動作喜劇の經典。王晶導演、動作設計は柯受良、撮影は後に《幻影特攻》などを監督する馬楚成。さらに前衛ロックで一斉を風靡した元《達明一派》劉以達が劇伴を作曲。各分野の鬼才が揃う。前年の《至尊計狀元才》から継続する華仔・譚詠麟のコンビに加え、本作のプロデューサーでもある曾志偉が大活躍!

《驚天12小時》海報

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疾風怒濤の十二時間…テロ組織から最後の輸血者を守り抜け!

王晶
王晶導演:ダライ・ラマと北島三郎の初コラボ!

シンガポール観光旅行にやって来たヤクザの若者『大B』と恋人『阿玲』が空港に降り立った。同時期、湾岸戦争に便乗した日本のテロ組織に抗議すべく、アジア圏に絶大な影響力を持つラマの高僧『達卡喇嘛』が来訪した。そして、潜伏していたテロ組織が暗殺計画を実行に移す。

事件に巻き込まれ銃弾を受けた『阿玲』と、重傷を負った『達卡喇嘛』は出血多量で生死の境を彷徨う。十二時間以内に輸血の必要があるが『阿玲』と『達卡喇嘛』は稀有な血液型の持ち主だった。シンガポールに在住する輸血の適正者は、わずか三名。香港から来た刑事『雷泰』と、その相棒『石頭』は『達卡喇嘛』救出のため、そして『大B』は恋人のため、懸命の捜索を開始する。

しかし、適正者の内二名は、警察内通者から情報を得て先回りしたテロ組織によって虐殺されてしまう。『大B』たちは、最後のひとり『肥波』を死守することが出来るのか…

舞台背景すら非常識な冗談と言える、喜劇色全開な痛快動作片!

《驚天12小時》日版DVD
《驚天12小時》日版DVD

王晶導演の得意とする喜劇色を全面に押し出した演出、軽快な物語進行、抜群の Collaboration を見せる俳優陣。現場の空気に大きく左右される香港電影だけに、製作陣の雰囲気は極めて良好であったはず。影圏を知り尽くした「影帝」こと華仔が代表を務める天幕製作ならではの制作現場と言えるだろう。

本作は、ポスターや各種 Packages から連想される Serious な印象とは裏腹に、動作喜劇である!非常識かつ荒唐無稽な舞台背景について、いちいち突っ込んでいたらきりがない。筋書きも一本道で、結末はわかったようなもの。しかし!傑作と呼べる仕上がり。

序盤において、単なる子供の玩具として登場したラジコンが重要な伏線となっていたり、誰もが忘れてしまうであろう、陳百祥が演じる医者見習いの恋人がちゃんと終盤に再登場したり、と綿密に作り込まれている。

また、全編に渡ってシンガポールでのロケであり Car chase の Sequences で流れる夜景が素晴らしく、撮影に選んだ Hotel も美しい。僕も一度はシンガポールを訪れてみたくなった。

《至尊計狀元才》から継続する俳優陣による抜群の連携

《至尊計狀元才》海報
向華勝/黃泰來《至尊計狀元才》1990

本作は、華仔の演じる『大B』を軸に、幕ごとに中心人物が推移する展開であり『雷泰』『肥波』『石頭』の各人にも劇的な Drama が用意される。複数スター性による各 Episode が終盤において見事に収束、大団円で Catharsis を呼ぶ演出の完成度は高い。

華仔、譚詠麟、陳百祥、羅美薇の共演は、前年の《至尊計狀元才》から継続。連続して撮影されたと思われる。華仔と譚詠麟の相性は、抜群に良い!陳百祥との連携も良く「三者ともに歌手」という繋がりがまた重要なのかも知れない。《至尊計狀元才》での「熱血男兒」の合唱は最高だった!

また、本作をプロデュースする曾志偉と華仔、梁家仁の三名は、同年の無綫五虎将が一度限りの復活を遂げた《五虎將之決裂》でも共演。こちらは曾志偉が監督している作品。衝撃のラストは華仔ゲスト回の《康熙來了》でも話題となった。拳銃を回す場面が難しく、何度も NG を出したという。完成後の出来栄えには大喝采、かつ女性ファンが号泣した。僕にも、きっついラストだった!

羅美薇の旦那は歌神

前年の《至尊計狀元才》では譚詠麟の恋人役を演じ、本作では華仔の恋人『阿玲』を演じる羅美薇は、1985年に黃百鳴が Produce した《開心少女組》の一員としてデビュー。翌年、1986年の《痴心的我》に歌神の恋人役で主演。そのまま恋愛関係になり、10年後の1996年に結婚している。開心少女組の Original members である袁潔瑩、陳嘉玲、羅美薇の三名は、それぞれが香港芸能界に確固たる地位を築いた。

華仔と梁家仁

《上海灘十三太保》DVD
張徹《上海灘十三太保》1984

華仔演じる実質的な主役『大B』は完全な Comic relief だ。ヤクザの若い衆に慕われる兄貴分なのだが、かなり頼りない。威勢だけは一丁前で、腕っ節は半人前。喧嘩となると李小龍を真似てみせるが、やっぱり格好だけ。ちなみに《中環英雄》でも、この物真似を披露している。とにかく、知恵が回る方ではなく直情的で、極度の高所恐怖症ですらある。

華仔と梁家仁の丁々発止のやりとりは最高。梁家仁は、張徹監督作で悪の用心棒を演じて来た経歴があり、高飛との共演による《識英雄重英雄》などに主演する、武術の達人だ。

実は、華仔と梁家仁は張徹導演、1981年の《上海灘十三太保》において同場面で共演している。華仔は、梁家仁が演じる『富翁』の妹の恋人『学生』役で出演。意外にも旧知の間柄なのだ。

その二人だから面白い!華仔も、現代の二枚目俳優からすれば達人と言えるほど動作は得意だが、邵氏兄弟時代の俳優陣は「武術家」そのものである。梁家仁の「強さ」の先行知識があれば、本作での二人の掛け合いは、なおさら楽しめる。

まったく新しい日本軍

譚詠麟《迷情》1991
譚詠麟《迷情》1991

譚詠麟は、本作の深刻な面を象徴する、ひとり真剣な男『雷泰』を演じる。《至尊計狀元才》では主役『雷力』という名前の賭博師を演じているのだが、何か関連があるのだろうか?ともかく、本作は、この男が日本のテロ組織の基地に潜入する場面から始まる。

組織の一員であることを証明する最初の合言葉は『ピザの配達に来ました。』である。『取ってない。』の返答の後、雷泰は『じゃ、うどんはいかかでしょうか。』と切り返す。これで合格…どこから突っ込めばいいんだ、これ!

音声吹き替えとはいえ、この台詞を譚詠麟が言うのだから、ぶっ飛んだ。なにより「譚詠麟と岡持ち」という予測不能な超常的な組み合わせ!明らかに違う声色、たどたどしい発音の吹き替えも含め、凄まじい衝撃であった。

実は Comedy も得意、というか Comedy の方が好きなのではないか?とすら思えるほど、無茶が出来る国民的歌手。ますますファンになってしまった!本作では、終盤にやたらと渋い演技を見せてくれる。譚詠麟ファンは色々な意味で必見なのだ。

北島先生と鎌倉先生のまったく新しい言語

『北島先生』と『鎌倉先生』の発言の際にも字幕が欲しい。とりわけ、55分過ぎの日本軍基地での会話。鎌倉先生の発言の半分以上には「まったく新しい言語」が含まれている。二名とも最も日本と親密な台灣出身の俳優だからであろう、吹き替えは「日本語会話」として扱われており、字幕が付かないのだ。要するに、國語字幕に切り替えないと内容が把握出来ない。中国語が読めなければアウト。

北島先生に至っては「北島三郎」という常軌を逸した氏名である上に『全力でデブやれ、他の奴らはこの際はどうでもいいです。』と、人道的にも文法的にも問題のある発言をぶちかます。個人的には電影史に残る名言だが…デブ、デブ言われる曾志偉が可哀想!そんな太ってないし。ちなみに曾志偉本人が本作のプロデューサー。自虐好きだなぁ、この人!

そして鐮倉先生を演じる秦豪は、翌年の魂の名作《廟街十二少》においても狂人を演じ、華仔演じる主人公『十二少』と家族を苦しめ抜いている。こちらでは香港人として出演。なお、秦豪は台湾出身である。

曾志偉が演じる『肥波』が大活躍!

曾志偉《奇華餅家》
引用:奇華餅家 – 香港餅食專家

物語中盤より曾志偉の演じる『肥波』が登場。最後の輸血適性者ゆえに、ヤクザの『大B』と、香港警察の『雷泰』『石頭』の捜索対象であり、テロ組織からは命を狙われる。『大B』との命懸けの逃避行や、家族と幼馴染みの窮地など、派手な動作を要求される見せ場がふんだんに盛り込まれている。

加えて、余計な発言で『雷泰』からビンタをされたり、上半身裸に吊りバンドの奇天烈な格好で街に飛び出したり、と定番的な Comic relief としての役割も果たしている。

初登場時には、ある映画の撮影で使われたスターの小道具を売っている。周潤發の使った時計、鍾楚紅が被ったカツラ、そして張國榮が付けていたブラジャー…という最後だけ意味不明なものであるが、この映画とは本作と同年、1991年の吳宇森導演《縱橫四海》である。大ヒット作となったので、現場の誰かが早速話題に盛り込んだのだろう。

陳慧琳は1991年には、まだデビューしてないぞ!

陳慧琳《醉迷情人》1995
陳慧琳《醉迷情人》1995

本作は、こうした Meta Fiction を意識した冗談が幾つかある。華仔が「劉德華の曲を歌おうか?譚詠麟の方が好きか?」といった趣旨の発言をしたり、陳百祥が「林青霞の裸が見たい。」(おい!)と言ったりする。なお、日本語字幕では林青霞の名前が陳慧琳に差し替えられている。

陳慧琳は本作公開時には、まだデビューしていないので、明らかにおかしい。疑問に思って調べると、本作の DVD は1995年の発売。それで、1995年にデビューした超新星を推したのだろう。しかし、劇中台詞の改竄は歓迎されない。水着姿すらほとんど見せたことのない超大物・林青霞だからこそ「絶対ない!」と笑えるところなのだ。

香港電影では、特に喜劇において、役名と役者名が共通していることが多々あり、演者の個性が観客に浸透していることが前提となった Meta 要素が顕著である。それがまた、香港電影を深堀りする切っ掛けになる。香港電影は知れば知るほど面白い。

曾志偉と日本の関わり

曾志偉が関わる作品には、決まって日本人が敵として登場する。そして曾志偉が日本語で「馬鹿野郎」などと言う。僕は曾志偉が大好きなのだが、彼は日本が嫌いなのだと思っていた。しかし、実際はその逆!2011年には「日本旅遊親善大使」も務めた程の親日家なのである。

政治家であり、香港芸能界の最高峰に立つ者として、近年は態度を硬化させざるを得ない部分があるものの、根本的な日本に対する親愛の情は変わっていないと信じたい。

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