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風暴

嵐は本当に過ぎ去ったのか…

銃弾の豪雨、飛び散る血飛沫、爆風、吹き飛ぶ肉体…吹き荒れる『風暴』に、命の灯が掻き消されそうな極限状態において、初めて「幸せ」を求めた『陶成邦』そして、その因果応報…晴天が戻ってきた。しかし、天候は移ろうもの。そして、絶滅でもしない限り、人は衝突を繰り返す…作品を見終えた僕の胸には、黒雲のような不安が残った。嵐は、また来る。

風暴

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  • 導演/編劇:袁錦麟
  • 動作設計:錢嘉樂
  • 監製
    江志強
    劉德華
    吳惠姍
    陳佩華
    劉德樂
    張康達
    任月
    張原成
    朱輝龍
  • 攝影
    陳志英
    張志忠
    陳國雄
    伍文拯
    葉偉英
  • 配樂:金培達
  • 領銜主演
    劉德華 … 呂明哲
    林家棟 … 陶成邦
    姚晨 … 羅燕冰
    胡軍 … 曹楠
    呂良偉 … 啪哥
  • 主演
    黃德斌 … 赵建国
    姜皓文 … 唐強
    陳沛研 … 嬈嬈
    尹子維 … 高飛
    洪天照 … 狄伟
    唐文龍 … 阿豹
    陳寶轅 … 周龍
    梁烈唯 … 杰(燕冰の弟)
  • 客串
    王敏德 … 蔡警司
    黃智賢 … 特別任務連指揮官
    盧海鵬 … 米其林酒樓の店主
    張兆輝 … トラック運転手
  • 獲獎
    第十二屆华鼎奖
    十佳华语电影
    2014年华语电影传媒大奖
    最受瞩目女演员:姚晨
  • 出品
    安樂影片
    銀都機構
    Focus Films(映藝娛樂)
    優酷土豆股份
  • 日期:2013年12月19日(香港)
  • 片長:109分
  • 日本版
    風暴 ファイヤー・ストーム
    Paramount Japan 2015年04月08日 Blu-ray / DVD
  • English title: Firestorm

命の灯を掻き消すような吹き荒れる『風暴』

『陶成邦』の人生とはなんだったのか?『呂明哲』の公務執行を故意に妨害した、車での衝突。自らの敵が級友であった事実に動揺を隠せないながら、あくまで「あれは事故だ。」と虚偽の申告をし続けた。友を欺き続けた。そして獄中生活を四年も待ち、あまつさえ己の誇りを売ってまで自分を支えた恋人『啪哥』を欺き続けた。夢もなく、人生に何の目的のないチンピラだった男。武装強盗団の一員として、警察との「戦争」の渦中にあった。投降という選択肢はない。あくまで武力抵抗する強盗団、全力を挙げる武装警察部隊。銃弾の豪雨、飛び散る血飛沫、爆風、吹き飛ぶ肉体…吹き荒れる『風暴』に、命の灯が掻き消されそうな極限状態において、初めて「幸せ」を求めた『陶成邦』そして、その因果応報…

呂明哲

【海報】羅維《精武門》1972
羅維《精武門》1972

胡軍は Disc の特典 Interview にて「劉德華のプロ意識には誰も勝てない。仕事に命を懸けている、偽りない本物の情熱。」と劉德華を絶賛した。劉德華は『呂明哲』という役をこう説明している。「生真面目で、法を信じている。しかし、法律は弱者を守るか?断言は出来ない。呂明哲は、怒りで我を忘れてしまうんだ。善と悪の両面を持っている、演じてみたかった役。」華仔出演作は、まだ33本しか見ていないのだが、確かに…いずれの主演作でも「絶対的正義の英雄」を演じてきた華仔にとって『呂明哲』は初めての役であろう。『呂明哲』は警視正でありながら、復讐のためには手段を選ばない。これまで華仔が演じてきた主人公たちと大きく異なるのは「暗黒面」を内包した英雄、より現実的な英雄だということだ。

自閉症の少女『啪哥』の父親『唐強』は、自身の服役中に娘の世話を続けてくれた『呂明哲』に報いるため、強盗団潜入捜査に挑み、そして愛する娘ともども虐殺された。復讐の炎に魂を焼かれた『呂明哲』は、証拠不足で煮え湯を飲まされ続けてきた強盗団の首領『曹楠』検挙のため、証拠の捏造という違法行為に手を染める…そして、証拠捏造の現場が撮影された映像を持つ『燕冰』の弟『杰』を故意に見殺しにした。

正義を守るべき法が、むしろ正義を執行するものを「がんじがらめ」にした結果だ。証拠がない。証拠がなければ裁けない。だが証拠は「互いの心の内」に確かにある…「正義」それは「人道的な怒り」だ。道徳に背く者が法に守られ、道徳を貫く者が、法において悪に堕ちる。

「正義とはなにか?」という命題

1972年の経典《精武門》が想起される。李小龍自身が選んだ『陳真』の最期。永遠に意味を持つ名場面だ。正義において行われたとしても、暴力は暴力を生む。復讐は復讐を呼ぶ。『呂明哲』は戦場から生還し、獄舎に入る。劇中で明示はされなかったが、証拠捏造行為と独断による『陶成邦』の潜入捜査許可が明るみに出たのだろう。『呂明哲』は、投降の意思を表明をした凶悪犯を射殺しているが『陳真』とは異なり「生きて」法に裁かれる結末を迎えた。法を冒したことは許されない、しかし、誰も彼を責めることなど出来ない。だが、これは同時に「暴力は暴力を生む」という連鎖が終わりを告げていないことを示しているのかも知れない…

黑幫電影と Poliziesco

DVD - Enzo G. Castellari - La polizia incrimina, la legge assolve 1973
Enzo G. Castellari "La polizia incrimina, la legge assolve" 1973

《風暴》を見て、1973年の Enzo G. Castellari 監督による不朽の名作 La polizia incrimina, la legge assolve(対訳:警察が検挙し、法が放免する)を思い出した。香港と Italia には共通する「黑社會」問題がある。香港に Hong Kong Noir の呼称で世界的な人気を誇る「黑幫電影」という類型があるように Italia には Poliziesco がある。

袁錦麟監督は Interview にて、本作の主題を「喪失と救済」と語っている。僕は「救済の手段」が要点なのだと感じる。僕は Paris に二年暮らしていたが、10代の不法入国者の集団に囲まれ、追い剥ぎにあったことが数回ある。地下鉄内では RacailleSurvival knife を突き付けられた。Paris では多くの人が体験する出来事だ。もし僕を救うとしたら、あなたは無法者に切々と愛を説くだろうか?僕は「正義」の体現手段を実体験から考える。

陶成邦

『陶成邦』と『呂明哲』の対極にある人生。林家棟は Interview で自身の役について、こう語っている。「陶成邦は、人生に目的がないチンピラ。その日暮らしで夢がない。命に危険が及んだ最後の最後に、やっと大切なもの、恋人に気がつく。」林家棟は劉德華が創立した「映藝集團」の契約俳優。劉德華は「この役は林家棟に演じて欲しかった。彼は実力があるのに、いつも出番が少ない。」と、林家棟の演技力を高く評価した上での抜擢であったことを教えてくれた。また、袁錦麟監督も「林家棟は、今までにない最高の演技をしてくれた。」と述懐している。

中盤で『陶成邦』と『呂明哲』は、縺れ合って10階以上の高さのマンションから落下、建物と建物の間の物干し竿に引っかかった「宙吊りの金網」という極めて不安定な場所で格闘する…動作経験のない林家棟は、まる一ヶ月ブラジリアン柔術を特訓したという。本作の Making から見て取れるように、この格闘場面は合成ではない。本当に高所で撮影されている。さらに恐るべきは、劉德華、林家棟ともにスタントマンなし、まさに命懸けだ!これぞ香港電影…僕なんか、見ているだけですみません!

Producer 劉德華の挑戦!中環が戦場と化す…史上初の映像に唖然!

劉德華は「この作品をきっかけに、香港でもっとアクション映画が増えて欲しい。世界に響く映画だ。」と語る。その通りだ!大いなる挑戦。Producer として劉德華は、本作終盤の銃撃戦に、前例のない「20分」という長尺を要求した。そればかりか、香港に訪れた経験のある方は良くご存知の「中環」が舞台である!

雲咸街 (Wyndham Street) 皇后大道 (Queen’s Road) を駆け抜け、畢打街(Pedder Street)で武装警察と武装強盗団が、停車した車やバスを塹壕替わりに、文字通りの「戦争」を繰り広げる。唖然!もう唖然とするしかない光景である。華仔が Interview で説明してくれているが、畢打街は「日曜の朝8〜11時の間しか撮影出来ない。10日の撮影で済むシーンが3ヶ月かかった。」という。また実地撮影不可能な演出場面においては 啟德機場 (Hong Kong Kai Tak International Airport) に畢打街のセットを組み Green Back 合成も用いられている。現実と架空が一体化してしまうほどの Reality を持った、壮絶を極める終盤。華仔ファンばかりでなく《風暴》は、香港観光が好きな人も絶対に見逃せない!

豪華主演・客串

蔣家駿《廟街十二少》1992
蔣家駿《廟街十二少》1992

俳優陣も豪華だ。強盗団の実行隊長には、電視劇《上海灘》で有名な呂良偉。僕は《上海灘》を見ていないので、その Homage が含まれた《賭俠Ⅱ上海灘賭聖》や《廟街十二少》に出演していた俳優と記憶しているのだが…なにより《導火綫》における『渣哥』役が最高に憎々しかった!『馬軍』が裁判所から出て来た『渣哥』をマウントでボコボコにする場面は、心底痛快だった…

強盗団部下には《蔡李佛》に主演した洪金寶の息子、洪天照もいる。《蔡李佛》はケイン・コスギも活躍、主題歌も良くて僕の好きな作品だ。また《野獣刑警》の王敏德も、狡っ辛い警視長役で客串。そして、張兆輝である。作品内で最も深刻とも言える場面であるにも関わらず…トラックから降りて来た人物には思わず笑ってしまう。

歴史に残るであろう真の名作

この《風暴》は109分あるのだが、夢中になって見ていた僕には、わずか30分程度にしか感じられなかった。かなり体も「前のめり」になっていたと思う。見終えて、深い余韻が残り、実に充実感があった。『呂明哲』と『陶成邦』どちらの生き方に視点を据えるかによって、感じ方が異なってくると思う。僕も、次にまた見る時が楽しみだ。警察署内で動画撮影を続ける『羅燕冰』の Smartphone にピースをかます華仔も最高に面白い!なお、本作は立体映画であり、本国、中国、台湾をはじめ劇場公開された国では Digital 上映されている。欧米に優るとも劣らない視覚効果を誇る本作が、日本で上映されなかったのは極めて残念だ…我が国が米国至上主義の呪縛から解き放たれるには世代の刷新が必要。開国せよ新世代!

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