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馬哥波羅

鉄砂掌!気功を高める魔術的な仕草、不敵な笑い…傅聲の魔力が開放される。

武術の奥義と西洋の魔術が溶け合った、この Psychedelic な場面を何度見返してしまったか!東方見聞録の余白に存在した、知られざる四人の英傑。13世紀末の揚州、焼き討ちされた少林寺から生き残った四人の義兄弟が「鬼気迫る修行」により奥義を体得。元王朝の三闘士と死闘を繰り広げる。

《馬哥波羅》海報

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  • 導演:張徹
  • 編劇:張徹/倪匡
  • 動作設計:謝興/陳信一
  • 攝影:龔幕鐸
  • 配樂:陳勳奇
  • 領銜主演
    傅聲 … 李雄風
    戚冠軍 … 周興中
    郭振鋒 … 陳杰
    唐炎燦 … 黃宗漢
  • 出演
    Richard Harrison … Marco Polo
    梁家仁 … 才達魯
    王龍威 … 都立丹
    劉家輝 … 阿不拉花
    盧迪
    施思
    黃家達
  • 出品:長弓電影/邵氏兄弟
  • 日期:1975年12月25日
  • 片長:103分
  • 日本版
    カンフー東方見聞録(マルコ・ポーロでええやん…)
    角川エンタテインメント 2008年07月25日 DVD
  • 英題:Marco Polo

東方見聞録の余白に、知られざる四人の英傑が存在した!その可能性は誰にも否定できない。

原典は Il Milione Capitoli 53-104 即ち「東方見聞録」のニ冊目。モンゴル帝国がユーラシア大陸を制圧した Pax Mongolica(モンゴルの平和)と呼ばれる13世紀の末、1271〜1292年の揚州を舞台とする。日本は北条時宗の鎌倉幕府、フランスはカペー朝、君主 Philipe IV により中央集権化が進んでいた頃である。

モンゴル帝国第五代皇帝、大ハーン「クビライ・カアン」(フビライ・ハーン)の元王朝は1271~1368年の間、中国とモンゴル高原を中心とした領域を支配していた。1254年09月15日、ヴェネツィア共和国(現在の Venezia)に生まれた Marco Polo が Xanadu と呼ばれる現代の世界遺産「上都」を訪れたのは、1271〜1275年の間とされる。

当時の Marco Polo は17〜21歳で、母国語である伊語以外に、仏語、トルコ語、モンゴル語、中国語での会話が可能であった。劇中で各登場人物達と会話が成立するのは史実なのだ。ラテン系欧州人にとって仏語は身近だし、稀にでもトルコ語に接する機会はあるだろう。しかし、東方のモンゴル語と中国語を話せたとは恐れ入る。この若さで、世界各国を見聞し、遥か異国の言語にまで通じていたとは…まさに偉人である。

張徹導演
張徹

クビライ・カアンより政治官に任命された Marco Polo は、揚州で徴税実務に就いた。Marco Polo 揚州滞在時の詳細は不明である。張徹は、この「東方見聞録にある余白」に注目し、そこに武侠的世界《馬哥波羅》を創造した。誰もが発想し得ることではない。歴史に造詣の深い、張徹監督ならではの視点である。

「東方見聞録」という史実があることで、脚本に X,Y 軸だけでなく Z 軸という奥行きが生まれる。なにより、演出による誇張こそあれ「知られざる英雄たちが存在したという可能性も否定できない」という大きな浪漫が生まれる。

なお、少林寺が戦乱に巻き込まれたことは事実だが、クビライ・カアンは後に「嵩山少林寺の中興の祖」と言われる、曹洞宗の五十二世雪庭福裕禅師を派遣し、寺院の修復を行っている。天道荘の実在については不明。

張徹監督が自ら設立した映像制作会社「長弓電影公司」

張徹監督は、1974年に邵氏兄弟有限公司から独立、台灣に渡り、自身の映像制作会社「長弓電影公司」を設立する。香港に戻ったのは1977年と言われているので、1975年公開の本作は台灣にて撮影されたのだろう。

夭逝の天才 Rock Star 傅聲

《蔡李佛小子》DVD
張徹《蔡李佛小子》1976

劇中の最高潮で繰り出される「鉄砂掌」。その気功を高める魔術的な仕草、不敵な笑い!恐るべき「魔力」が開放される瞬間。何度この場面を見返してしまったか…中国武術の奥義と西洋の魔術が溶け合って Psychedelic な香りがする。

傅聲の演技には「幻覚的な艶」がある。僕は《方世玉與洪熙官》で、初めて傅聲を見た。見終えた直後にこの《馬哥波羅》そして《蔡李佛小子》と《唐人街小子》の日本版 DVD を衝動的に購入。

傅聲の魔術的な容姿は、僕の大好きな Wales 出身のバンド Gene Loves Jezebel の Michael Aston を想い起こさせた。そして同じく Wales 出身の Bullet For My Valentine の激しくも繊細に染みわたる旋律が似合う。Jim Morrison の存在や Lou Reed の音楽も連想させる。傅聲は、僕にとって Rock Star なのだ。

鬼気迫る修行!鉄砂掌・金鐘罩・輕功・靜功

《洪拳小子》海報
張徹《洪拳小子》1975

本作の見どころは、なんと言っても人気スター達による「鬼気迫る修行」と「炸裂する奥義」である。少林寺の四人の義兄弟は各々の個性を活かした奥義を体得。主演の傅聲は「鉄砂掌」の使い手。陽気で無邪気、いたずら好きで、とぼけてはいるが頭の切れる二枚目だ。戚冠軍は、義兄弟をまとめ上げる冷静沈着な長兄を演じる。全身を鋼鉄と化す「金鐘罩」の達人であり、壮絶な死闘を展開。戚冠軍が兄、傅聲が弟という二枚目同士の兄弟役は、稀代の名作《洪拳小子》を筆頭に、多くの作品で見られる定番人気である。

これがデビュー作となる郭振鋒は、超人的な跳躍を可能とする「輕功」を極める。この人の身体能力は、大袈裟でなく現実世界の輕功の達人と言える。空中で後方360度転回しての両足蹴りも凄まじい!

最強格の末弟を演じるのは、唐炎燦。剛力を引き出す「靜功」を体得し、一騎当千の圧倒的強さを見せつける。自身に等しい大きさの岩石を持ち上げ、打ち砕く!その様は、世界最多と言える見聞をしてきた Marco Polo をして『人間離れしている』と言わしめた…「東方見聞」における最大の衝撃か!

序盤で姿を消す、義兄弟の最年長であったジェンミン(漢字不明)を演じるのは《合氣道》でデビューした黃家達。洪金寶ともども主演格の存在感を放っていたデビュー作と同様、今作でも印象に残る演技を見せている。

王龍威大佬の Lucha Libre が炸裂!

Santo en el museo de cera - El mundo de los muertos
Gilberto Martínez Solares "El mundo del los muertos" 1970

元王朝の三闘士は恐るべき猛者揃いだ。本作では悪の親玉の De facto Standard と言える王龍威大佬を差し置き、梁家仁が最強の闘士を演じている。勿論、お笑い要員と化す遥か以前。その達人の武術に驚くべし!傅聲との凄まじい攻防が見もの。さらに、髪が生えている劉家輝が双剣の使い手役で出演している点も注目。さすが劉家輝師父、どんな兵器も自由自在である。

そして、今回の王龍威大佬は凄い。モンゴル相撲から連想されたのか、武侠片では珍しい「組み手」の達人を演じる。実際の動きは Lucha Libre そのもので、張徹一門の格闘技への造詣の深さを改めて感じさせる。序盤で見せる高度な攻防は Estrella 級。前後逆の Raynella のような Quebradora で相手の背骨を折って殺害する瞬間に寒気が走る。

Cinecittà 慣れしている Richard Harrison はスタジオ撮影に適役。

《馬哥波羅》日版DVD
《馬哥波羅》日版DVD

クビライ・カアンは、1215年09月23日生まれ、1294年02月18日没。Marco Polo 来訪時は60歳前後となり、劇中の描写も史実と符号する。しかし Marco Polo を演じる Richard Harrison は米国、ユタ州ソルトレイクシティ出身の1935年生まれであり、当時40歳。史実の Marco Polo と国籍及び年齢は異なる。

しかし Richard Harrison は Spaghetti Western, Polizesco に幾つか主演作を持っている。なにより Cinecittà 慣れをしているのだ。映画スタジオでの撮影には適役と言える。張徹は、もちろん邵氏影城での撮影を積み重ねてきた。本作は邵氏影城ではないが、スタジオ撮影である。

もっとも Marco Polo 役には、やはり Italia の俳優を選んでもらいたかった。年齢の問題はさておき、例えば Alberto Dell’Acqua なんか相応しいとは思うのだが… Richard Harrison より遥かに二枚目だし、アクションは得意中の得意。残念ながら、長弓電影公司とイタリア映画界に具体的な繋がりがなかったのだろう。それにしても Cinema Italiano と香港電影の共通点は多い。

ちなみに Lo chiamavano King の話。

Lo chiamavano King - Brian Foster e King
Giancarlo Romitelli "Lo chiamavano King" 1971

Richard Harrison の出演作は Lo chiamavano King しか見たことがなかった(Paris 在住時であったので仏語版)。この作品は稀代の名曲である主題歌と Klaus Kinski 以外に評価すべき点がない。しかし、僕の親友 David Lavabre は『映画があまりにも酷かった故に、Kinski の死に際の、あの絶妙なる「苦虫を噛み潰す表情」が生まれた』と、監督を絶賛?している。

僕は VHS cover にデカデカと描かれた Kinski のイラストにすっかり騙され「Kinski が主演の King というガンマン、これは凄い!」と喜び勇んで作品鑑賞し、茫然自失となった。僕にとって Richard Harrison = King だったのだが、本作《馬哥波羅》のおかげで、彼の印象はずっと良くなった。

馬哥波羅の予備知識となる Keywords

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Kazu Spara in 25 May 2017
Kazu Spara