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喜劇之王

不器用でも自分に真っ直ぐな生き方を肯定する「ぬくもり」

大笑いした、大泣きした。周星馳の名演が心に焼き付く。彼の生き方に激しい共感と高揚を覚え「自分も彼のように強く生きたい」という感銘、自分の果たせなかった想い、など雑多な気持ちが入り混じった涙が抑えきれなかった。

《喜劇之王》VCD

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  • 導演:周星馳李力持
  • 編劇
    曾謹昌
    周星馳
    李敏
    鄭文輝
    馮勉恆
    梁嘉傑
  • 動作設計:羅禮賢
  • 監製:楊國輝
  • 攝影:黃永恆
  • 配樂
    黃英華
    日向大介
    Jonathan Platt
  • 領銜主演
    周星馳 … 尹天仇
    張栢芝 … 柳飄飄
    莫文蔚 … 杜娟兒
    吳孟達 … 臥底
  • 特別介紹:成龍 … 替身演員
  • 主演
    李兆基 … 基哥
    林子善 … 洪爺
    田啟文 … 洪爺手下
    鄭文輝 … 甜筒輝
    八兩金 … Pierre
    李思捷 … 導演
  • 出品:星輝海外
  • 日期:1999年02月13日
  • 片長:90分
  • 日本版
    喜劇王
    Happinet Pictures 2001年04月25日 DVD
  • English title: King of Comedy

観衆を喜ばせるべき役者自身が「素直に喜べる」人でなかったとしたら、本当の感動は生まれない。

周星馳《喜劇之王》
周星馳飾尹天仇

役者を目指す尹天仇の人生における分岐点:芸能界の権力者、古狐の大女優 Cuckoo からの寵愛を受け入れるか?それとも、社会的地位や名誉とは無縁だが、純粋さを失わない風俗嬢 Piu-Piu との約束を守るのか?

この作品を見た誰しもが、強く心を動かされるだろう。真剣な主題を、眉間にしわ寄せるのではなく「陽気に清々しく」描き、見た者の心を爽やかに潤す。周星馳という人の監督としての手腕にも脱帽するしかない。心に突き刺さる真の名作。大きな勇気をもらった。

Cuckoo は、きらびやかな芸能界で絶対的権力を持つ大女優だが、その実態は「自己嫌悪に付きまとわれる」孤独な女性ではなかったか?尹天仇は、立身出世の駆け引きよりも、自分に正直に生きることを選んだ。銀幕の役者としては端役であったとしても、仲間内で主催した演劇会では大観衆を喜ばせる主演俳優である。

観衆を喜ばせるべき役者自身が「素直に喜べる」人でなかったとしたら、本当の感動は生まれない。Cuckoo の舞台と、尹天仇の舞台の規模は遥かに違う。しかし、観衆を本当に喜ばせることが出来るのは、尹天仇のような役者である。本作の終幕は、尹天仇の生き方を肯定し、その後の大成を暗示している。自分自身の生き方を肯定されるような「ぬくもり」を感じた。

新世紀を前に、周星馳がひとつの区切りとして自伝的作品を創り上げたかったのかも知れない。

本作は香港の旧正月、1999年02月13日に封切られた、めでたい新春映画なのである。さらに、張栢芝の電影デビュー作でもある。日本版 DVD には特典として、当時の彼女の貴重なインタビューが収録されている。おまけに、成龍の客演というサプライズ!短い場面ながら、成龍の『君にも出来る』という檄を受け、周星馳が「熱い握り拳」で深く頷く姿に大きな意義を感じるのである。

舞台劇《雷雨》

ところで、終幕の舞台挨拶の後、撮影は終了したであろうが《雷雨》は一部だけでも演じられたのではないだろうか?ちなみに Wikipedia によると《雷雨》の初演は1935年4月27〜29日に東京で行われたと記録されていたが、2007年11月以降、1934年12月2日に中國浙江省上虞縣的春暉中學で初演されたと修正された。

ぎこちなく、逡巡を残した、自分の本心を確かめるかのような足取り

周星馳和張栢芝《喜劇之王》引用:《喜劇之王》張柏芝憑處女作走紅 – 新浪網

尹天仇と恋に落ちる女性 Piu-Piu は、熱愛の内に結ばれた旦那が結婚後に豹変、暴力を振るわれ、生活費捻出のため、風俗業に無理やり就かされた、という過去を持つ。尹天仇と一夜を過ごした翌朝、ケバケバしい化粧と派手な衣服を脱ぎ捨てた Piu-Piu は、海沿いの部屋の窓際で、朝の太陽と潮風を浴びていた。

尹天仇が見た、飾らない Piu-Piu の美しさ。濁りない瞳、自然に溶けこむかのような透明感。彼女の真実の姿があった。

夢を諦追い続ける尹天仇の生き様が Piu-Piu の内面を変えた、いや純真であった頃に引き戻した。尹天仇は去りゆく Piu-Piu に「約束」をする…強く、深く、僕の「心に焼き付いた」場面。

たどたどしい足取りで、走り出したタクシーを追う、尹天仇。ぎこちなく、どこかにまだ逡巡が残っているかのような、あの歩き方。自分の本心を確かめるような足取り。一歩ごとに、尹天仇の気持ちが、じわりじわりと伝わってくるのだ。

タクシーの中にいる Piu-Piu に声を張る、尹天仇。力むこともなく、至ってありきたりた調子で、まるで朝の挨拶をするかのように Piu-Piu に約束した。車内で感極まる Piu-Piu のように、周星馳の名演に涙が溢れ出た。

若干19歳の駿才、張栢芝がデビュー

張栢芝 Destination
張栢芝《Destination》1999

本作は当時19歳の張栢芝、電影デビュー作にして、いきなりの主演女優である!あの周星馳が認める実力…凄い新人だ。しかも、その美貌は世界一級。香港芸能界の彼女に対する期待と注目度は大変なもので、その様子は DVD 付録インタビューからもうかがえる。

彼女が演じる Piu-Piu と尹天仇の恋、それが本作の Plot Point である。男が人生を賭けたくなる、ひとつの理想的女性像…張栢芝は、いきなりの大役かつ難役を、デビュー作とは到底思えない素晴らしい演技で果たしている。周星馳監督の高い要求に見事に応え、感動的な名場面を幾つも生み出した。

銀幕の「幻影」からは想像もつかぬ現実が幾らか報道されたが、その「華」は34歳の現在も変わらず。その美貌が屈指であることは間違いない。僕は変わらず彼女のファンである!本作のような感動的な結末を現実にして欲しいと強く願う。

歌手・張栢芝

2006年までは歌手としても活動が盛んであり、都合12枚ものアルバムを発表している。僕は2001年の專輯《最新形象》をYesAsia で購入、そして2003年の精選《至愛唇色》を人生初の中国観光の際に、親友の地元である南通で発見、即購入した。とりわけ《目的地》《最新形象》は好きな曲だ。二枚目の專輯 Destination もいつか欲しい…中古で本体が¥300でも送料が¥1,500とかなぁ。

張栢芝の音程は危なっかしい。しかし、歌手としても表現に「色気」があって最高なのだ。気が付いている人は多くないと思うが「歌には演技力」が必要だ。歌は上手いが、魅力のない歌手なんて腐るほどいる。だから名優は歌が上手い。ちなみに、張栢芝の元旦那である、謝霆鋒の音樂專輯は8枚所持。彼は歌手としても、もちろん役者としても、華仔と並ぶ英雄。

無厘頭:生活の機微の笑い

吳孟達引用:吳孟達資料檔案 新浪娛樂 新浪網

弁当係の親父は偉大な男であり、そびえ立つ壁である。尹天仇とこの親父の関係は、まるで父子だ。この親父が、尹天仇を成長させ、真の役者への覚醒を促した。ここには妙な真実味がある。周星馳の実体験に基づく逸話なのかも知れない。

尹天仇は、しがない村の公民館の受付係として生計を建てつつ、役者を目指す若者。撮影所に押しかけて、なんとかエキストラとして大作映画への出演チャンスを得るも、撮影時に大失敗。

撮影後に「弁当を支給されれば一人前の映画関係者」と認められた証となるが、尹天仇は「弁当係の親父」から弁当の支給を断固拒否される。「そんなに食いたければ犬と一緒に食え!」と、地面に投げ捨てられる弁当…

尹天仇の演技を買ってくれるのは、村のゴロツキ少年だけ。老婆から小遣いを巻き上げるような少年に、ヤクザの演技指導をしては小遣いをもらっていた。

尹天仇は自分自身を『クソのような男』と自嘲する。弁当係の親父は、その事実を知っており、尹天仇を「役者」として絶対に認めない。

恐怖の番人、弁当係のハゲ親父「臥底」を演じる吳孟達

数多の周星馳出演作で、脳裏にこびりつく個性を発揮する怪優、吳孟達とは如何なる人物か?尽きせぬ興味のままに調べれば「無厘頭」という単語が浮かび上がる。"Nonsensical" と対訳出来るようだ。

しかし「無厘頭」は単純な不条理性の羅列ではなく、生活習慣に基づいた、ささやかだが深いところから込み上げてくる感覚、つまり「香港の日常生活の機微から生まれてくる笑い」である。つまり無厘頭には、香港文化に精通していないと「捉えきれない感覚」がある。

この無厘頭を確立したのが周星馳であり、1989年の電視劇《蓋世豪俠》が嚆矢とされる。ここから周星馳と吳孟達は、バラエティ番組において日本で言う漫才なども披露。TVCM・広告などあらゆる媒体に登場し、お茶の間を席巻、無厘頭は文化の潮流となる。《整蠱專家》では、なんと華仔を交えての無厘頭が繰り広げられたのだ!

全裸で公道を徘徊する小胖子

物語の転換期に現れる、全裸で丸々と太った幸せそうな子供。この小胖子、常に全裸である。神秘である。Credits の背景映像においては、あろうことか「ばば」こいているのである…絶句。

莫文蔚の Bullet Ballet に見る女優の高い職業意識

王家衛《墮落天使》1995
王家衛《墮落天使》1995

莫文蔚が劇中劇にて、吴宇森作品における周潤發ばりの Bullet Ballet を披露。Action の演出は DVD 付録 Interview にて「導演」周星馳が挑戦してみたかった分野だと回想されている。この劇中劇のみ抜き出し、本作を「槍戰動作片」と評しても、誰も疑わない完成度だ。

香港や台灣の女優はすべからく、鍛えられた「腿と脹脛の曲線」が芸術的な美脚である。中華圏の女優には概ね、演技力のみならず高い身体能力を要求される。節制とジム通いが日課であろうし、それがあの引き締まった肉体、抜群の体型に繋がっているのだ。

その職業意識の高さこそ、80年代以降の日本との決定的な違い。なんといっても中華圏は、10億を優に超える人口を意識する市場である。島内のみが標的の日本市場なんぞとは比べようもない。

墮落天使の思い出

莫文蔚の知名度は日本でも高い。僕は日本公開当時に劇場で見た《墮落天使》で初めて見た歌手・女優。この作品で第15屆香港電影金像獎の助演女優賞に輝いている。

当時の僕は、香港電影どころか映画そのものへの興味が希薄だったので、映画館に足を運ぶ事は稀だった。実は《墮落天使》は街頭で偶然見たポスターの李嘉欣がきっかけ。彼女の美貌は、映画に無関心な僕の足を劇場に向かわせるまでに衝撃的だった。

そんな動機で見たわけで、この作品で覚えているのは李嘉欣がベッドに居るシーンのみ…各俳優に注目して、今一度見てみれば違った発見があるに違いない。

海賊版だと思しき日本版 Junk DVD

《喜劇之王》日版DVD
日版DVD是盗版如質量

通販はますます容易になった時代、躊躇なく「香港盤」を推奨。日本版の Master は、海賊版 VCD だろう。YouTube の最低品質と同等かつ 4:3 画角に映像の左右をぶった切った、いわば "Junk DVD" 価格も¥500程度。こうした怪しい業者は、米国や Spain にも幾つかいる。

Happinet Pictures が2001年に DVD を発売。2002年に ArtPort が VHS 版を後発、同時に日本語吹き替え版も発売。謎すぎる。その後 ArtPort は2005年に Happinet Pictures 版と全く同じ DVD を発売。それを2011年には ARC という販社が再販。実に胡散臭い。

よくこれを「正規品」として何度も売れるものだと感心する。僕は Happinet Pictures 版と ArtPort 版 DVD を所有しているが、どちらも品質はまるで変わらず。違うのは Cover だけ。

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