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新蜀山劍俠

還珠樓主の大作武俠小説《蜀山劍俠傳》原作の香漫《蜀山劍俠》を新解釈。

徐克ならではの色鮮やかな特撮作品に仕上がっている。SFX と Wire Fu に特化した「特撮主体」の演出である。鄭少秋と元彪、林青霞と李賽鳳という顔合わせは貴重。

新蜀山劍俠

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  • 導演:徐克
  • 編劇:水中月/司徒卓漢
  • 動作設計
    元奎
    元彪
    馮克安
    孟海
  • 監製:鄒文懷
  • 攝影:黃仲標
  • 配樂:關聖佑/鄧少林
  • 領銜主演
    鄭少秋 … 丁引
    林青霞 … 瑤池仙堡 堡主
  • 主演
    元彪 … 明奇
    孟海 … 一真
    洪金寶 … 長眉道人
    徐少強 … 天刀老人
    李賽鳳 … 沈小蘭
    狄威
    馮克安
  • 特別客串:翁倩玉 … 李亦奇
  • 出品:嘉峰電影
  • 日期:1983年02月05日
  • 片長:90分
  • 日本版
    蜀山奇傅・天空の剣
    Paramount Japan 2014年01月20日 DVD
  • English title: Zu: Warriors from the Magic Mountain

実質的な領銜主演は鄭少秋と林青霞。洪家班の面々も揃うが、演出はあくまで特撮主体。

原作は、中国大陸の作家「還珠樓主」の武俠小説《蜀山劍俠傳》の香港漫画版《蜀山劍俠》である。この内容に新解釈を加え、改編した作品。五胡亂華の戦乱期、血で血を洗う世相に蘇る妖魔『血魔』一族。混沌から世を救うべく、伝説の《紫青双剣》を求め、選ばれし若者『明奇』が人智を超えた戦いの旅に出る。

例えば電視劇(連続ドラマ)であれば Season 1, Season 2 といった逸話に分割出来る。しかし、電影として90分に「要約」した内容であるため展開は、かなりの駆け足。つまりは Digest であるが、各逸話の内容が凝縮されている分 Climax 場面の連続。続々と現れる個性的な登場人物と急展開する物語に、興味を引っ張られる。実質的な領銜主演は鄭少秋と林青霞。洪家班の面々も多数出演しているのだが、武術が活かされる場面は僅少であり、特撮を主体とした演出がなされている。

原作の主人公は鄭少秋が演じる『丁引』なのである。

蜀山劍俠
蜀山劍俠

原作を読んだことがないので推測になるが、漫画の表紙を見る限り主役は『丁引』だ。彼こそが真の《紫青双剣》の使い手なのである。その原作を踏襲してか、この電影作品内で、まともに戦えるのは鄭少秋が演じる『丁引』だけ。飛行する剣を用いた秘術の数々が大きな見せ場となっている。序盤における血魔一族との決闘、蘇った血魔との対峙では、怒涛のような SFX による戦闘が展開される。血魔一族の棟梁を馮克安が怪演、跳弾の如き状態での死に際が凄まじい。

本作では途中降板する準主人公的な扱いではあるが『丁引』の活躍に割く時間は、物語の大半を占める。それ故に、各国版の DVD cover では鄭少秋が主演として扱われている。僕は、予備知識なく《新蜀山劍俠》を見た。そして、元彪が演じる主人公よりも、準主人公が目立つ内容に疑問を感じた。諸々の知識を得た今だからこそ合点がいくが、その理由は『丁引』が本来の主人公だから。主人公を差し置いて『丁引』が大活躍する理由は、原作漫画を知らないとわからない。

林青霞と李賽鳳による美の共演!

林青霞と李賽鳳の共演、これには必見の価値あり。惜しむらくは、二人が揃って行動するような場面がないことだが、両女優とも登場場面が多いので目が潤う。林青霞が演じる『堡主』は、仙女ばかりが暮らす高山の城の統治者。如来のような髪型、服装、座姿で、後光が射す美しさ。超常的な力で病を治療する仙女で、血魔の毒に冒された和尚と『丁引』の治療に当たる。

『丁引』とは恋仲のようになるが、誇り高き『堡主』は、簡単に気を許さない。石像を浮遊させるなどの仙術を用い『丁引』と競い合う場面がある。また「妖魔が化けた偽堡主」として紅い衣を纏い、釣り目の化粧を施した林青霞も一瞬ながら見ることが出来る。李賽鳳は、城主に使える次女たちの頭目役で登場。『明奇』『一真』と《紫青双剣》の捜索の旅に出ることになる。大きな活躍はないが、主人公陣の一角であり出番は多い。いつ見ても、李賽鳳の可愛らしさは筆舌に尽くしがたい。

異形の妖魔が強烈に印象に刻まれる。

ウルトラマンレオ Music File
ウルトラマンレオ Music File

『丁引』の空飛ぶ剣や、和尚の空中飛行、鐘を用いた術。これらも独創的で印象に刻まれるのだが、妖魔の演出の不気味さは突出している。日本の妖怪とは異なる、文字通り「異形」の者たちが、特撮という血を得て暴れまくる。この作品を幼少期に見た方にはトラウマ的に記憶に残っているのではないだろうか。序盤における血魔の姿は「ウルトラマンレオ」《超人力霸王雷歐》第49話の「円盤生物ノーバ」を想起させる部分もある。

元彪が演じる『明奇』は最弱の登場人物。

元彪は、救世主となる双剣《紫青双剣》の片方の主に選ばれし若者『明奇』を演ずるのだが、演出上「武術を駆使する場面がまったく存在しない」どころか、終盤までは最弱の登場人物なので、まるで戦えない。『明奇』は物語の狂言回しといった役割だ。『明奇』の相棒、もう一方の剣の主となる『一真』を演じるのは孟海。修行中の若い僧侶であり、定番の Comic Relief である。活躍こそ多いが、やはり武術は用いない。

洪金寶と翁倩玉

客演ながら洪金寶も一人ニ役で出演。洪金寶がそこに居るだけで温かみが湧くから不思議だ。終盤には日本でも知らない人はいない翁倩玉(ジュディ・オング)が《紫青双剣》を保有する伝説の剣士『李亦奇』役で登場。決して不適切な配役ではないが、ここで唐突に現実世界に引き戻されたような感覚を覚えたのは僕だけだろうか?

整合性の取れた作品ゆえに荒唐無稽な爆発力は欠く。

徐克の個性が強く出た演出であり「幻想性」「入り組みながらも筋の通った脚本」「高度な撮影技術」が際立っている。膨大な量に及びそうな内容を、がっちりと纏めあげており、矛盾のない一遍の伝奇として納得できる完成度がある。整合性がある反面「荒唐無稽さ」は欠く。多少なりとも羽目を外した方が「爆発するような盛り上がり」が生まれたのではないだろうか。登場人物の量と役者の格、そして映画の尺による制約もあるが、主人公陣の人物描写が控え目で、登場人物は誰もが「生真面目」すぎる嫌いがある。

もう若干でも主人公たちの活躍を描いて欲しかった…

Wire と特撮による演出は凄まじいが、喰い足りない感が残るのは、英雄であるはずの『丁引』が毒に倒れ、悪と戦える人物が中盤で消えてしまうという流れ。そして、主人公の『明奇』は修行すらすることなく《紫青双剣》の奇跡だけで事態を収束させてしまう。この他力本願かつ素っ気無い結末ではカタルシスを欠く。物語の背景には、主人公陣が《紫青双剣》に辿りつくまでの、波瀾に富んだ未公開の冒険譚が多く隠されていることだろう。

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Kazu Spara in 25 May 2017
Kazu Spara